相続
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Q.遺言書があるとないでは、何がどう変わるの?

A.遺言書は個人の意志を伝える切り札です

遺産分割の話しあいは、相続人全員の合意があってはじめて成立します。全員了解するのであれば、どのようにわけてもいいのです。ただし、もめる場合に遺言書は有効です。民法で定められた法定相続分は、遺言がある場合は遺言の指定のほうが優先されるのです。いわば、相続の切り札といえるわけですね。

私的な財産については、基本的に生前はもちろんのこと、死んだ後でも本人の意志が尊重されるということです。ただし、法律で認められた遺言書でなければ効力は発揮できません。死ぬ間際に、「私の財産は、A子にすべて譲る」と口頭でいって亡くなっても、それは遺言書とは認められません。

逆に、本人の意志ではない遺言書は無効です。もしも遺言書が誰かに強制的に書かされたものであるときは無効になります。また、重度の認知症などの場合に書いたものも無効とされることがあります。

ただし故人の意志がすべて通るわけではない

遺言書は法定相続よりも優先されますが、すべてが思い通りになるわけではないことも知っておきましょう。

たとえば、ある男性が亡くなったときに「愛人にすべての財産を譲る」という遺言書が出てきたら、残された家族は困るでしょう。亡くなった方の財産は基本的にはその人のものですが、財産を持つにあたった過程では、配偶者やその子どもなど、家族の支えがあったからかもしれません。そのため、被相続人の財産に対して、相続人には最低限の遺産を受け取る権利があると認められているのです。そうした取り分を「遺留分」といいます。

相続人の最低限の取り分を認める遺留分

遺留分は次のように決められています。

法定相続人 全体の遺留分 それぞれの遺留分
配偶者のみ 1/2 配偶者が1/2
子どものみ 1/2 子どもが1/2
配偶者と子ども 1/2 配偶者が1/4、子どもが1/4
配偶者と父母 1/2 配偶者が2/6、父が1/12、母が1/12
父母のみ 1/3 父が1/6、母が1/6
兄弟姉妹のみ なし なし
配偶者と兄弟姉妹 1/2 配偶者が1/2、兄弟姉妹なし

ただし、遺留分はその権利を主張しないかぎり、認められません。何もいわないでいると、遺言書の内容通りに遺産は分配されます。遺留分の権利を主張するためには、「遺留分の減殺請求」を行います。

基本的には「私の遺留分に相当する遺産を返してほしい」ということを主張すればいいので、証拠が残る内容証明郵便などで相手に意志表示をするといいでしょう。

遺留分の減殺請求ができるのは、相続があったことを知ってから1年以内です短い期間でその権利は消滅してしまうので、遺留分が侵害されているかどうかわからなくても、意志表示だけはしておくといいでしょう。

ちなみに、遺留分を算定する場合の基礎となる財産には、亡くなったときの財産のほかに、遺贈されたもの、相続開始前1年以内に贈与されたもの、特別受益(被相続人から生前に援助を受けていた分を遺産から差し引く)なども含まれ、借金などの相続債務は差し引かれます。

遺言書でできること、できないこと

遺言書は亡くなった方の意志を伝えるものですが、尊重される意志には制限があります。それはおよそ、次のような事柄となります。

<身分に関すること>
婚姻関係以外で生まれた子どもの認知や、親権者がいなくなる未成年者の後見人の指定と遺言執行者の指定ができます。

<相続に関すること>
「土地建物は長男のAに、その他の財産はおかあさんに」というような相続分の指定、遺産分割方法の指定などができます。また、「おかあさんが生きているうちは財産は分けるな」といった遺産分割の禁止もできます。ただ禁止できるのは5年で、この期間を過ぎると分割できるようになります。

ただ気があわないなどの理由では認められませんが、たとえば、子どもが親にたびたび暴力をふるっていて、自分の死後、財産を渡したくないと思っても、子どもには遺留分があるので、相続する財産を0にすることはできません。相続する財産を0にできるのは、相続人の排除です。

認められるのは、被相続人にたびたび暴力をふるっていたり、被相続人を侮辱していたり、ひどい非行にはしっているなどの場合です。

手続きは、遺言の内容を執り行う遺言執行者が家庭裁判所にに申し立てを行います。実際に排除が認められるかどうかは、家庭裁判所の審判に委ねられます。 特別受益の持戻し(遺産から特別受益を差し引くこと)の免除なども指定が可能です。

<相続財産の処分に関すること>
相続人以外の財産の分与(遺贈)、寄付行為や信託の希望を書くことも可能です。

遺言書には思いも残せる

上の「身分」「財産」「財産相続」の3つが、遺言でできる基本的なことで、たとえば「末長く兄弟仲良く暮らして欲しい」というような内容は、故人の意志として受け取れても法的な拘束力はありません。

ただし、「長男に自宅を相続させるかわりに、おかあさんの面倒はみるように」というような、財産をゆずることと引き換えに一定の義務を負わせることはできます。

「付言事項」として、被相続人の想いを書くのです。「A子に遺産を多く分けたのは、おかあさんの面倒をよく見てくれていることへの感謝の気持ちです」などと書いてあると、相続人も意図がわかって遺言を受け入れやすくなります。

相続は財産の問題だけでなく、心の問題がトラブルに発展しやすい問題です。ぜひこの付言事項も書いて、財産だけでなく、心も相続人に残しましょう。

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こちらの専門家が回答してくれました
税理士・羽田リラ
株式会社ウーマン・タックス 代表取締役